近年、障がいのある方が行うパラスポーツへの関心も高まっており、その多様な競技性やアスリートたちのひたむきな姿は多くの人々に勇気を与えています。今回ご紹介する「ハンドサッカー」は、まさに障がいの有無や程度に関わらず、誰もが一緒に楽しめるように工夫された別け隔てのないスポーツです。サッカーを基本としながらも、独自のルールと魅力を持つハンドサッカーの世界を、基本ルールからその奥深い魅力まで徹底解説していきます。
ハンドサッカーの基本ルール
ハンドサッカーは、その名の通り、手を使ってボールを扱うことを基本としたスポーツです。しかし、単にサッカーを手で行うわけではありません。
障がいのある方がより安全に、そして公平に楽しめるように、細部にわたってルールが調整されています。ここでは、ハンドサッカーの基本的なルールを見ていきましょう。
試合時間と勝敗
ハンドサッカーの1試合は、前後半各5分、計10分で行われます。これは、選手の体力的な負担を考慮した設定となっています。試合終了時に、より多くの得点を獲得したチームが勝利となります。
チーム構成とポジション
1チームは7人の選手で構成されます。特筆すべき点は、選手の運動機能や障がいの程度に応じて、以下の4つのポジションに分かれていることです。
- フィールドプレーヤー: 立位または車いすでの移動が可能な選手が務めます。主にボールを運び、パスを出すなど、攻撃の中心となります。
- スペシャルシューター: フィールドプレーヤーよりも障がいの程度が重い選手が務めます。ゴール前でパスを受け、シュートを狙う役割を担います。
- ポイントゲッター: スペシャルシューターよりもさらに障がいの程度が重い選手が務めます。ゴールに最も近い位置で、味方からのパスを受けてゴールを狙います。
- ゴールキーパー: ゴールを守る役割で、手を使ってボールを扱うことができます。
このようにポジションを分けることで、運動機能に制限がある選手でもシュートチャンスを得られるように工夫されています。
得点方法
ハンドサッカーの得点には、以下の3つのパターンがあります。
- メインゴールへの直接シュート: メインゴールへの直接シュートは3点となります。
- スペシャルシューターによるシュート: スペシャルシューターにボールがわたると、シュート2本の権利を得られます。サブゴールに向かってシュートをし、決まれば1点が入ります
- ポイントゲッターによるシュート: パスが通った段階で1点が入り、さらメインゴールに向かって、自ら設定した課題でシュートをして決まれば1点が入ります。
スペシャルシューター、ポイントゲッターによるシュート方法は障害の程度によって様々あります。
自分が成功できるか失敗するか半々くらいの難易度で、課題を設定してチャレンジします。試合時間は前半後半5分ハーフで、より多くの得点をあげたチームが勝利となります。
ボールの扱い
ハンドサッカーでは、ボールを手または腕で扱うことが認められています。ただし、ボールの保持時間には制限があり、選手の障がいの程度によって3秒、5秒または10秒と定められています。
どちらの制限時間を適用するかは、チームの指導者が試合前に決定します。このルールにより、ボールを長時間保持する行為を防ぎ、よりスピーディーな試合展開が生まれます。
また、ボールのキャッチが困難な選手に対しては、ボールが身体や車椅子などに触れた場合にボールの保持を認めるという特別なルールも存在します。
ボールをキャッチ可能な選手の場合は、ボールに触れただけでは保持とはみなされません。このルールの適用も、チームの指導者が決定します。
交代
ハンドサッカーでは、選手の交代は何度でも自由に行うことができます。これは、選手の体力や状況に合わせて柔軟なチーム運営を可能にするための措置です。
反則
基本的な反則としては、ボールの保持時間を超える行為や、他の選手への危険な行為などが挙げられます。反則の種類や程度によって、相手チームにボールが渡されたり、ペナルティが科せられたりします。
ハンドサッカーの魅力
ハンドサッカーは、単なる障がい者向けのレクリエーションスポーツではありません。そこには、多くの人々を惹きつける深い魅力が詰まっています。
別け隔てのない精神
ハンドサッカーの最大の魅力は、障がいの有無や程度に関わらず、誰もが同じフィールドで一緒に楽しめる別け隔てのない精神です。
運動能力に自信がない方や、これまでスポーツを諦めていた方も、それぞれの能力に合わせてチームに貢献できる喜びを味わうことができます。
特別支援学校に通う様々な障がいを持った児童・生徒たちが、車椅子に乗っている人もそうでない人も、知的障がいのある人もない人も、一緒になってプレーしているそうです。
戦略性とチームワーク
それぞれの選手の特性を活かしたポジション配置や、制限時間内でのスピーディーなパス回し、そしてゴールを奪うための連携など、ハンドサッカーは非常に戦略性の高いスポーツです。
チームのメンバー一人ひとりが自分の役割を理解し、互いに協力し合うことで、より大きな力を発揮することができます。
ポイントゲッターへの効果的なパス、スペシャルシューターの得点能力を最大限に引き出すためのサポート、そしてゴールキーパーの堅守など、チーム全体の連携が勝利への鍵となります。
多様なプレースタイル
選手の障がいの種類や程度が異なるため、それぞれのチームには個性豊かなプレースタイルが生まれます。
車椅子を巧みに操作しながらボールを運ぶ選手、正確なパスでチャンスを作り出す選手、そして、限られた運動機能の中で渾身のシュートを放つ選手など、多様なプレースタイルが見られるのもハンドサッカーの魅力の一つです。
観戦する側にとっても、予測不能なプレーの連続は大きな興奮をもたらします。
成長と達成感
ハンドサッカーは、単に楽しむだけでなく、選手の成長を促す力も持っているでしょう。チームの一員として活動することで、コミュニケーション能力や協調性が養われ、目標に向かって努力することで達成感を味わうことができるでしょう。
また、試合に勝利した時の喜びは、選手にとって大きな自信となり、日常生活への活力にも繋がります。
まだ見ぬ可能性
ハンドサッカーは、まだ発展途上のスポーツであり、そのルールや戦術には無限の可能性があります。今後、さらに多くの人々に知られ、競技人口が増えることで、新たな技術や戦略が生まれてくることが期待されます。
選手たちは、まだ確立されていない「新しいスポーツの形」を自分たちの手で作り上げていくという、他にはない魅力も感じていることでしょう。
ハンドサッカーとパラスポーツ
ハンドサッカーは、パラスポーツの中でも特に多様性のある性格を持つ競技と言えるでしょう。多くのパラスポーツは、特定の障がいを持つ選手を対象としていますが、ハンドサッカーは障がいの種類や程度を問わず、誰もが参加できることを目指しています。
現在のところ、ハンドサッカーはパラリンピックの正式競技には採用されていません。しかし、その多様的な理念や、競技としての可能性は高く評価されており、将来的にはパラリンピックの舞台で活躍する日が来るかもしれません。
実際、2025年2月には、障がいの有無に関わらず誰もが楽しめるイベント「IncluFES 2025」でハンドサッカーのエキシビションマッチが開催され、多くの参加者がその魅力を体験しました。
このようなイベントを通じて、ハンドサッカーへの関心が高まり、普及が進むことが期待されます。
まとめ
ハンドサッカーは、障がいの有無や程度を超えて、誰もが一緒に楽しめる別け隔てのないスポーツです。
基本的なルールはサッカーやハンドボールに似ていますが、選手の特性に合わせたポジション分けや得点方法、そしてボールの保持時間制限など、独自の工夫が凝らされています。
戦略性、チームワーク、多様なプレースタイル、そして成長と達成感といった多くの魅力を持つハンドサッカーは、参加する人だけでなく、観戦する人にも感動と興奮を与えてくれます。
まだパラリンピックの正式競技ではありませんが、その可能性は無限に広がっており、今後の発展が非常に楽しみなスポーツです。
あとがき
この記事を通して、ハンドサッカーの基本的なルールとその魅力についてご理解いただけたでしょうか。
パラスポーツに関心のある方はもちろん、これまでスポーツに触れる機会が少なかったという方も、ぜひ一度ハンドサッカーの試合を観戦したり、体験会に参加したりしてみてください。
きっと、その多様的な精神と、選手たちのひたむきなプレーに心を奪われるはずです。ハンドサッカーが、より多くの人々に知られ、愛されるスポーツとして発展していくことを心から願っています。
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