車いすカーリングは、車いすで競技するカーリングで、1990年代にヨーロッパで生まれました。2006年の冬季パラリンピック(トリノ大会)から正式競技として実施されており、現在は世界各地で行われています。性別や年齢を問わず、誰もが戦略と技術を駆使して戦える奥深さが、多くの競技者を惹きつけてやみません。本記事では、最新動向や基本ルール、そして競技を支える精神について詳しく解説します。
競技の基本ルールと車いす独自のデリバリー方法
車いすカーリングは、一般的なカーリングと同じストーンと同じシートを使い、得点方法などの基本も多くが共通します。一方で、ストーンの動きを氷を掃いて調整する「スウィーピング」は行いません。スウィーピングがないため、1投ごとの精度が特に重要になります。
ストーンを放つデリバリースティックとポジション
選手は車いすに乗り、投球時は車いすを静止させた状態でストーンを放ちます。投球は腕・手で放す方法のほか、「デリバリースティック(エクステンダーキュー)」を使って押し出す方法も認められています。
スティックの先端をストーンのハンドルに引っかけ、目標に向かってまっすぐ押し出すことで、狙いのラインと強さを作ります。
- 投球順:リード、セカンド、サード、フォースの順に1人2投ずつ投げます。
- スキップ:チームの司令塔として、投球の狙い場所や戦術をまとめる役割を担います。
- チーム構成:国際大会では男女混合で編成し、氷上には女性選手が出場する規定があります。
チーム内では、特定の1名が「スキップ」と呼ばれ、投球側とは反対のハウス側から、ストーンを投げ入れる位置や戦術全体を判断する司令塔の役割を担います。
スキップは試合の流れを読みながら、チームメンバーに指示を出します。スキップ自身が投球する際には、「バイススキップ」が代わりに作戦指示を担当します。
投げ手は、スキップまたはバイススキップの指示に従い、投げる方向や強さを細かく調整しながら投球します。チーム全体の連携と判断力が、勝敗を左右する重要なポイントです。
車いすカーリングの参加資格(クラス分け)と一般カーリングの違い

車いすカーリングは、主に下肢(脚)の機能に障がいがある選手を対象とする競技です。分類(クラス分け)では、筋力低下、他動関節可動域の障がい、四肢欠損など、定められた基準に当てはまるかどうかを確認します。
なお、車いすカーリングは競技クラスが複数に分かれる方式ではなく、参加資格を満たした選手が同一の競技クラスで競う形が基本です。
| 項目 | 車いすカーリング | 一般カーリング |
|---|---|---|
| スウィーピング | 行わない(氷を掃いて調整しない) | 実施(氷を掃いて調整する) |
| 投球方法 | 車いすを静止させた状態で投球する | スライディングして投球する |
| チーム構成 | 4人制は男女を含む混合チームで編成する | 男子・女子・混合などの区分がある |
いかに最適なショットを選択するかがチームの腕の見せ所です。氷の状態を読み、相手のストーンを弾き出す「テイクアウト」や、狙った位置に止める「ドロー」を使い分けます。
競技を支えるスタッフとカーリング精神の重要性
車いすカーリングの試合は、選手だけでなく多くのスタッフによって支えられています。特に「IPA(Ice Player Assistant:アイスプレイヤーアシスタント)」は、競技運営に欠かせない存在として位置づけられています。
ストーンのクリーニングや投球位置へのセッティングなどを担当し、試合が円滑に進むように支えています。
スポーツマンシップを体現するカーリング精神
カーリングにおいて大切にされているのが、相手への尊敬と思いやりを基本とする「カーリング精神」です。不当に勝つくらいなら負けを選ぶという考え方を含め、競技の伝統として受け継がれています。
この精神は競技規則にも「The Spirit of Curling」として示されており、すべての参加者が大切にする行動の指針になっています。
~カーリングは技術と伝統のゲームです。技を尽くして決められたショットは見る喜びです。また、ゲームの神髄に通じるカーリングの古くからの伝統を見守るのは素晴らしいことです。カーラーは勝つためにプレーしますが、決して相手を見くだしたりしません。真のカーラーは相手の気を散らしたり、相手がベストを尽くそうとするのを決して妨げたりしません。不当に勝つのであればむしろ負けを選びます。カーラーは、ゲームの規則を破ったり、その伝統を決して軽視したりしません。不注意にもこれが行われていると気がついた場合、その違反を真っ先に申し出ます。カーリングゲームの主な目的が、競技者の技術の粋を競うことである一方、ゲームの精神は立派なスポーツマンシップ、思いやりの気持ち、そして尊敬すべき行為を求めています。この精神は、アイスに乗っているいないに関わらず、ゲームの規則の解釈や適用に生かされるだけでなく、全ての参加者の振る舞いにも生かされるべきものです。~
相手が最高のパフォーマンスを発揮できるよう妨害しない、という考え方は、まさに紳士・淑女のスポーツと言えます。この価値観が、車いすカーリングをより気高い競技へと昇華させています。
ショットの戦術と解説付き動画による楽しみ方

試合をより深く楽しむためには、ショットの種類や戦術を知ることが近道です。代表的な「ドロー」と「テイクアウト」に加えて、守りを固めるためのガードショットや、1投で複数の石を出すダブルテイクアウトなど、多彩な技があります。
戦略が複雑に絡み合う展開は、氷上の頭脳戦と呼ばれる理由が伝わりやすいです。
実況解説付きの動画で学ぶプロの戦術
近年、日本車いすカーリング選手権大会などは、YouTubeで実況・解説付きの配信やアーカイブ公開が行われています。
スキップがどのような意図で指示を出しているのか、そのショットがどれほど難しいのかを、実況や解説とあわせて把握できます。初心者の方でも、動画を通じて試合の流れをつかむことで、競技の魅力を感じやすくなります。
解説者の専門視点を取り入れると、一投ごとに変化する状況を理解しやすくなります。大会映像を見比べながら、日本代表クラスの選手たちの技術や判断の速さにも注目してみてください。
ミラノ・コルティナ2026で注目される新種目「車いすカーリング・ミックスダブルス」
ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会では、新種目として車いすカーリングのミックスダブルス(男女混合2人制)が初めて実施されます。
4人制とは異なり、ミックスダブルスは1エンドあたりに投げるストーン数が少ない形式です。スウィーピングを行わない点も踏まえると、少ない投球で局面が動きやすく、1投の精度と判断がより重要になります。
この種目のパラリンピック出場枠は、世界車いすミックスダブルスカーリング選手権の成績に応じて付与されるポイントを、2023〜2025年シーズンで合算した順位で決まります。2025年大会では、日本の小川亜希選手と中島洋治選手のペアが優勝し、日本はポイント順位によりミラノ・コルティナ2026の出場枠を獲得しています。
2010年大会に出場した経験を持つ2人は、ミックスダブルスという新しい舞台で、16年ぶりのパラリンピック出場を目指して挑戦を続けています。
まとめ

車いすカーリングは、日本選手権が開催されるなど、国内において競技としての取り組みが続けられているスポーツです。
スウィーピングがない分、投球の正確性と高度な戦略が求められ、誠実なスポーツマンシップを重んじる「カーリング精神」が息づいています。多様な人々が共に楽しめるこの競技は、今後も多くの感動と興奮を私たちに与えてくれるでしょう。
あとがき
車いすカーリングは静かな氷上で繰り広げられる一投一投に、選手たちの経験や判断、そしてチームとしての信頼関係が凝縮された競技です。スウィーピングがないからこそ、読みと精度がより問われる点も、この競技ならではの魅力と言えるでしょう。
ミラノ・コルティナ2026パラリンピックでは、新種目を含めた車いすカーリングの舞台が世界に広がります。日本代表選手たちがどのような戦略とプレーで挑み、どんな活躍を見せてくれるのかを楽しみに見守りたいと思います。


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