AI義足と未来型車椅子が走り出す世界

スポーツファン
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テクノロジーの進化は、パラスポーツの世界に新しい風を吹き込んでいます。なかでもフィジカルAIは、義足や車椅子などのデバイスがより自然に、より自分らしく動けるよう支える注目の技術です。アスリートの動きを深く理解し、力を最大限に発揮できるようサポートすることで、競技の未来を大きく変えつつあります。本記事では、フィジカルAIの仕組みやスマート義足・車椅子の進化をわかりやすく紹介します。

フィジカルAIとは:現実世界を自律的に動く新しい知能

フィジカルAIは、現実の物理世界を認識し、自律的に動作を実行できる新しい分野の人工知能です。

これまでの従来のAI(生成AIなど)が、データや情報といったサイバー空間での処理に主眼を置いてきたのに対し、フィジカルAIはロボットや自動運転/自律移動システムなどの自律型マシンに搭載され、義肢や車椅子への応用も期待されるため、実際に物理的な身体を持って現実世界で活動します。

このAIの重要な価値の一つは、現実での「実行力と適応力」にあると考えられます。

サイバー空間で導き出された最適な答えを現実に反映させる際、重力や摩擦といった物理的な変化に瞬時に対応し、人間の意図した通りに動作を調整し続けることが求められます。

この物理的な制約下での柔軟な判断と制御こそが、フィジカルAIの核心です。フィジカルAIは、身体性を備えたAIとも表現され、人間に代わって、または人間を支援しながら複雑な作業をこなします。

特にパラスポーツでは、アスリートの微細な身体の動きや路面状況をAIが即座に理解し、義足や車椅子といったデバイスの動きをリアルタイムで最適化する上で、この技術が非常に重要な役割を果たすと考えられます。

フィジカルAIが物理世界で機能するためには、以下の三要素の統合が欠かせません。一つ目は認識です。

これは、カメラや圧力センサーなど、様々なセンサーを通じて現実世界の情報をリアルタイムで取得し、アスリートの動きを把握する目や耳の役割を担います。

二つ目はAI処理(判断・学習)です。取得したデータを物理モデルと照合し、過去の動作データから学習した大規模モデルを活用して、次に何をすべきかを瞬時に判断します。

そして三つ目が行動です。これはAIの指令に基づき、モーターや油圧システムなどの駆動装置を制御し、物理的な動作を実行する、手足や筋肉の役割を果たします。

この認識→判断→行動という高速なフィードバックループにより、フィジカルAIは従来のAIのように単に情報を処理するだけでなく、人間の神経系のように環境と相互作用しながら自律的な行動を実現します。

その結果、日常生活の支援においても大きな可能性を秘めていると言えるでしょう。

パラスポーツを革新するスマート義足の仕組み

近年、ロボット工学やAI技術を応用したスマート義足(ロボット義足)の研究が目覚ましく進み、パラスポーツの分野でも活用の幅が広がっています。

これらの義足の大きな特徴は、内蔵センサーからの情報をもとに関節の動きを自動でコントロールできる仕組みを備えている点でしょう。従来の受け身な義足よりも、より高い適応性が期待されているのです。

実際に開発が進むロボット義足には、加速度センサー・ジャイロセンサー・荷重センサーなどが搭載されています。これらが、義足にかかる力や角度、歩行周期といったデータをリアルタイムで取得しているわけです。

研究によると、これらのデータを解析することで、歩行・立位・階段昇降といった動作を自動で切り替える制御が可能になると報告されています(例:EMG や加速度データを用いた動作推定など)。

一部の研究では、センサー情報を機械学習モデルに入力し、利用者の動作モードの推定や義足関節の最適制御に活かす試みも行われています。

この方式なら、階段や坂道など環境が変わる場面でも、ニーズに応じた関節トルクの調整が可能であることが示されています。

競技義足の領域では、素材や形状工学に基づき、カーボン素材などを用いたバネ構造の改良によって軽量化やエネルギーリターンの最適化が進められています。これが競技パフォーマンスを力強く支える要素のひとつになっていると言えるでしょう。

もちろん、AI制御の研究も進んでおり、ユーザーの動きに合わせた、より滑らかなコントロールを目指す取り組みが続けられています。

さらに、近年のロボット義足研究では、継続使用によって集まるデータを用い、利用者ごとの歩行パターンに適応する制御アルゴリズムの改良も検討されています。

これにより、個々の身体特性や利用状況に応じた、さらに自然な歩行支援が実現する可能性が示されていることでしょう。

BionicMはディープテック・スタートアップとして、活動レベルが高いユーザーから始まり、高齢化したユーザーにまで展開することを視野に入れ、長期に渡り、研究開発を通じて技術の確立を達成してきました。その中でも、特に人間の動作を精確にセンシングし、自然な強さ・タイミングで動作をアシストする技術に強みを持っています。
下肢切断者の約9割が45歳以上であることに着目し、独自の技術を活用して、高齢化する義足ユーザーの日常生活課題の解決や関係者の介護負担の軽減など、多様で複雑な社会的課題の解決に寄与します。

PRTIMES

このように、AIやセンサーを活用した義足は、利用者の意図や環境に応じて補助や機能拡張を目指す機器へと進化しつつあり、日常生活の移動支援や活動範囲の拡大に貢献する可能性があります。

スマート車椅子:AIによる安全な移動の実現

AI・ロボティクス技術は電動車椅子の高度化に大きく貢献しており、利用者の安全な走行を支援する技術として発展しています。

近年のスマート車椅子の研究・開発分野では、LiDAR・カメラ・超音波などの環境認識センサーや、加速度センサー・ジャイロセンサーを含む慣性計測ユニット(IMU)が搭載されているのが特徴です。

これらの情報をAIや高度な制御アルゴリズムが統合的に処理することで、障害物回避・姿勢制御・利用者の操作補助などの最適化が、リアルタイムで行われています。

さらに、不整地での安定走行のための姿勢推定や、上肢機能の低下などにより操作が難しい利用者を支援する補助制御も研究されています。

AIが安全な進行方向や速度をサポートすることで、操作の負担が軽減され、利用者の移動範囲拡大や社会参加への後押しとなっているのです。

一方、パラスポーツで活用される競技用車椅子では、モーションキャプチャやセンサー計測によるデータ解析が進められています。

腕の動作データ、推進力、姿勢などを解析し、車椅子のフレーム形状や重心位置、シート高さといった細かな設計要素を最適化する研究や検討が報告されています。

これらの技術は選手のパフォーマンス向上に寄与し、日常用車椅子の設計にも影響を与えてきた要素があることが指摘されています。

競技分野で培われた高精度制御や適応アルゴリズムは、一般向けの電動車椅子、電動カート、歩行補助ロボットなどの開発にも応用が広がっていると考えられます。

これにより、より多様な利用者が安全かつ自立的に移動できる環境づくりに役立っています。

フィジカルAIはスポーツと福祉の両分野をつなぎ、誰もが生きやすいインクルーシブ社会の実現に向けた重要な基盤技術となりつつあるのです。

まとめ

フィジカルAIは認識・判断・行動の高速ループで物理世界に適応するAIで、ロボットや自律移動技術を軸に義肢や車椅子への応用も期待されます。

スマート義足はセンサーと機械学習で歩行や階段などを推定し関節制御を最適化し、競技用では軽量化とエネルギーリターンの改善が進みます。スマート車椅子はLiDARやIMUで障害物回避と操作補助を行い、スポーツの知見が福祉機器にも還元される技術です。

あとがき

今回のテーマに触れながら、技術が人の可能性をそっと後押しする瞬間に魅力を感じました。

フィジカルAIは派手さだけでなく、暮らしの安心や自信を静かに支える存在です。こうした技術の温かい側面を、今後も大切に発信していきたいと思います。

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