2020年東京大会は、競技の感動だけでなく、社会のバリアフリー化と人々の意識改革という計り知れない功績を日本に残したと考えられます。特に、障がい者支援に関心を持つ企業・教育関係者・ボランティアの方々にとって、この変化を理解し、活動に活かすことが重要です。日本が目指すアクセシブル・シティの構想を深く掘り下げ、支援活動へ繋げるための知識とヒントを提供します。本記事では、パラリンピックの影響と都市の未来図を解説します。
パラリンピックがもたらした二つの「バリアフリー」の進化
2020年の東京パラリンピックは、日本社会における障がい者支援の意識と環境を大きく前進させる契機になったと言えるでしょう。
特に、社会を形成する二つの側面である「心のバリアフリー」と「物理的なバリアフリー」の両面で変化が顕著に見られます。この二重のレガシーを理解することは、支援者や企業、教育関係者にとって重要です。
政府は大会に先立ち、ユニバーサルデザイン2020行動計画を打ち出し、交通機関や公共施設のバリアフリー化を進めました。
これは駅や道路、建物などのインフラ整備(ハード面)に焦点を当てた取り組みです。しかし真の共生社会には、物理的整備だけでなく、偏見や無理解といった「心の中の壁」を取り除く意識改革が不可欠になります。
心のバリアフリーとは、障がいを「特別なこと」ではなく多様性の一部として受け入れ、自然に支援し合う社会的態度を意味します。
パラアスリートたちは、従来の「かわいそう」というイメージを覆し、障がい者が持つ能力・可能性を広く社会に示しました。
こうした「心」と「物理」の両面で進んだバリアフリーの同時進行こそ、パラリンピックが日本にもたらした最大の遺産(レガシー)です。
私たちはその流れを継続し、誰もが暮らしやすいアクセシブル・シティの実現へとつなげていく責任があると言えるでしょう。
アクセシブルな構想が描く「包摂の未来」

日本は東京パラリンピックを契機に、誰もが安心して暮らせるアクセシブルな都市づくりを本格的に推進しています。
これは、車いす用スロープの設置などの単なるバリアフリー化を超え、年齢・障害・言語・文化などあらゆる違いを包み込む都市づくりを目指す取り組みです。
その中心にあるのがユニバーサルデザイン(UD)の理念です。UDは「誰にとっても使いやすい」設計を基本とし、障がい者だけでなく、すべての人々の快適な暮らしを支える都市の土台となっています。
アクセシブル・シティの実現に向けた取り組みには、まず物理的な移動のしやすさがあります。
法改正や行動計画に基づき、駅のエレベーター整備、ノンステップバスの導入、段差の解消、視覚障害者向け点字ブロックの改良などが進みました。
さらに、情報のアクセシビリティ向上として、外国人や聴覚・視覚障害者にも配慮した多言語表示やピクトグラムの導入も広がっています。
急速に高齢化が進むわが国では、誰もが安全で安心して社会参加するために、高齢者や障害者等はもちろん、歩行者の誰もが安心してスムーズに移動できる、ユニバーサルデザインによる歩行空間の整備が急務となっています。国土交通省道路局では、平成18年12月に施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称「バリアフリー法」)に基づき、全ての人が安全に安心して参加し行動できる社会を実現するため、駅、官公庁施設、病院等を結ぶ道路等において、歩行空間のユニバーサルデザインを推進しています。
この構想は、障がい者支援の枠を超え、日本の高齢化社会と持続可能な都市づくりに向けた重要な国家戦略でもあります。支援に携わる人々にとっても、この変化が日常生活や働く環境をどう変えるのかを理解し、共に進化を支える姿勢が求められています。
企業・ボランティアが活かす「心のバリアフリー」
パラリンピックが加速させた心のバリアフリーは、特に企業や市民ボランティアといった支援に携わる方々にとって、その活動を質的に向上させる鍵となるでしょう。
これは、単なる親切心ではなく、「合理的配慮」の原則に基づいた、専門的で効果的なサポートを意味します。
合理的配慮と情報アクセシビリティの重要性
パラリンピックで広まった「心のバリアフリー」の考え方は、会社やボランティア活動でのサポートを、もっと質の高いものに変える大切なポイントだと言えるでしょう。
これは、「親切にしよう」という気持ちだけでなく、法律にもとづいた大切なルールでもあります。専門的な言葉で言うと「合理的配慮」と言って、相手に合わせた、効果的な手助けをすることを意味しています。
企業では、2016年施行の改正障害者雇用促進法により、障害のある社員や採用応募者に対する合理的配慮が義務づけられています。
さらに、障害者差別解消法の改正により、2024年4月からは、顧客など事業者がサービスを提供する相手に対しても、合理的配慮の提供が法的な義務となりました。
たとえば、聴覚障害のある社員には筆談やチャットの活用、知的障害のある社員には業務手順の写真やイラスト化など、過度な負担にならない範囲で環境を整えることが求められます。
一方、ボランティア活動では、視覚障害のある人への声掛けの工夫や、知的障害のある人へのわかりやすい説明など、相手の特性を理解したうえで支援を行う姿勢が必要です。
また、企業や団体が発信する情報においても、音声読み上げ機能や動画の字幕や手話付与など、情報アクセシビリティを確保することが重要です。これにより、誰もが情報にアクセスできる環境を整えることができます。
このような「心のバリアフリー」の実践は、企業においてはダイバーシティ経営を推進し、組織の新しい価値創造につながります。
ボランティアにとっても、支援の質や満足度を高める要素となります。パラリンピックの真の遺産は、「誰でもできる支援」ではなく、「相手に合わせた最適な支援」への意識改革であり、これこそが共生社会への一歩となるのです。
教育現場と地域コミュニティの役割

教育現場と地域コミュニティは、共生社会の実現に向けて重要な役割を担っています。
学校では、インクルーシブ教育の推進やパラリンピック競技を体験する学習を通じ、子どもたちが障害への理解を深め、ちがいを大切にする心を育んでいるのです。
特に、車いすバスケットボールやボッチャの体験は、多様な視点や道具の工夫への気づきを促すでしょう。
一方で地域では、市民ボランティアがパラリンピックでの経験を、祭りやスポーツイベント、災害支援など日常の活動へ活かしている例も見られます。
これにより、障害の有無に関係なく誰もが参加できる地域づくりが進められています。
こうした取り組みは、障がい者支援を「特別なこと」から「日常」へと変える大きな力となります。
さらに、企業や学校が地域と連携し、バリアフリーマップ作成や共生スポーツイベントを行うことで、地域全体のインクルーシブな環境は強化されるはずです。
教育と地域が一体となり、多様性を尊重し支え合う精神を育むことこそが、アクセシブル・シティを実現するための、推進力と言えるでしょう。
レガシーを持続させるための具体的な行動と連携
パラリンピックが残したハード・ソフト両面のレガシーを持続させるには、多様な立場が連携し、継続的に取り組む姿勢が不可欠です。
企業は企画段階から当事者の意見を取り入れ、教育現場では「合理的配慮」への要望に柔軟に対応していく必要があるでしょう。
また、地方を含む公共交通機関や観光地へのバリアフリー化など、インフラの継続的整備も重要となってきます。
さらに、ボランティアは大会で得た知識を地域イベントや学校活動で活かし、「心のバリアフリー」を広げる役割を担うことが期待されています。
行政・企業・学校・市民が情報共有や合同研修を通じて連携を深めることで、アクセシブル・シティは社会の“当たり前の風景”へと定着していくはずです。
東京都は、東京2020大会を契機に成熟した都市として新たな進化を遂げるため、大会後のレガシーも見据え、ハード・ソフト両面にわたり様々な取組を進めてきました。大会を通じて生み出された様々なレガシーを発展させ、「未来の東京」の実現に向け、歩みを進めていきます。
これらの継続的な活動こそが、パラリンピックが未来へ残した最も大きな贈り物となるのです。
まとめ

東京2020パラリンピックをきっかけに、日本では心と物理の両面でバリアフリーが進み、ユニバーサルデザインや合理的配慮を軸にしたアクセシブルな都市づくりが加速しました。
企業・学校・地域・ボランティアが連携し、教育や情報発信、インフラ整備を通じてレガシーを日常の支援へと根づかせていくことが、共生社会と未来の都市を育てる鍵です。
あとがき
この記事を書きながら、パラリンピックの価値は大会の感動だけではなく、日々の暮らしに息づく変化そのものだと改めて感じました。
支援に関わる立場に関係なく、私たち一人ひとりが小さな行動を積み重ねることで、より優しい都市と社会が育っていくのだと思います。


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