ボウリングは、老若男女、障がいの有無に関わらず誰もが気軽に楽しめるレクリエーションスポーツでありながら、競技としての奥深さも持ち合わせています。特に障がい者ボウリングは、視覚障がい者向けのガイドレールや、車いす利用者のためのスロープ台など、個々の特性に応じた工夫が凝らされ、その参加の敷居の低さが魅力です。本記事ではボウリングの持つ「バリアフリー」な特性は、パラスポーツの裾野を広げる大きな可能性を秘めています。
誰もが参加できる障がい者ボウリングのバリアフリーな秘密
ボウリングが「誰でも楽しめる」スポーツと言われる最大の理由は、その驚異的なバリアフリー性にあります。
他の多くのパラスポーツとは異なり、障がいの有無や程度にかかわらず、競技の基本となるレーンやピンは一般のボウリングとほぼ同じものが使用されます。
障がい者ボウリングでは、個々の特性に応じてさまざまな「補助具」や「介助」が認められており、これが参加の敷居を大きく下げています。
視覚障がい者用ガイドレール:視覚障がいの程度が重いクラスの選手は、レーン手前に設置されたガイドレールを触覚で確認しながら投球方向を決めることができます。
車いすでの投球:車いすに乗ったまま投球できます。助走が難しい場合でも、投球ラインへのアプローチやボールのリリースに工夫を凝らし、健常者と変わらない熱い戦いを繰り広げます。
ボウリングランプ(スロープ台)の使用:投球動作が難しい選手は、ボウリングランプと呼ばれるスロープ台を使って、ボールを転がすことができます。
視覚障がい者の競技では、IBSA(国際視覚障がい者スポーツ連盟)の基準に基づき、視力によってB1(全盲)からB3までの3つのクラスに分けられ、公平性が確保されています。
ボウリングは用具や規則の工夫によって、肢体不自由、視覚障がい、知的障がいのすべてに対応でき、まさにインクルーシブスポーツの理想的な形の一つと言えるでしょう。
ボウリング場が地域の誰でも気軽に遊べる空間となるためにも、これらの補助具や支援方法の周知が重要です。
知的障がい者競技に見るボウリングの熱さと一般ルールとの違い

全国障がい者スポーツ大会(障スポ)において、ボウリング競技は知的障がいのある選手が出場する個人戦として実施されています。ここでは、一般のボウリングとほぼ同じルールで、熱いスコア争いが繰り広げられます。
競技は男女別・年齢区分別で、ハンディキャップなしのスクラッチ戦(実際のスコアのみで競う)4ゲームの合計得点によって順位が決定されます。
競技方法:デュアルレーン(アメリカン)方式を採用しています。選手は隣り合う2つのレーンを使い、フレームごとにレーンを移って交互に投球します。
用具:使用するボールやシューズ、レーン、ピンは一般のボウリングと同じです。特別な道具を用意する必要がないため、参加しやすいという大きなメリットがあります。
知的障がい者ボウリングは競技としてのレベルも年々向上しており、上位入賞者の中には高いスコアを叩き出す選手もいます。集中力、反復練習、そして緻密な戦略が融合した結果であり、一般の競技者と遜色ない技術の高まりを示しています。
全国障がい者スポーツ大会では、知的障がいの選手が出場する個人戦が行われます。 全日本ボウリング協会のボウリング競技規則によって行われます。 競技はデュアルレーン方式(※)で行われ、順位は4ゲームトータルで決定します。
※選手が隣り合う二つのレーンを使い、フレームごとにレーンを移って二つのレーンで交互に投球する方式
競技の熱さと真剣さを会場で体感することは、パラスポーツの魅力を知る最良の機会となるでしょう。障がいの有無を超えた真剣勝負の姿は、観る人すべてに感動を与えます。
競技レベル向上を支える選手とアシスタントの連携
特に視覚障がい者ボウリングや投球に介助が必要な競技スタイルにおいて、選手とアシスタント(ガイド/スポッター)の連携は競技レベル向上の鍵となります。
視覚情報が限られる中でいかに正確に投球し、残りのピンを処理するかは、アシスタントの情報伝達能力にかかっています。アシスタントは単なる介添えではなく、戦術面や技術面で選手をサポートする重要なパートナーです。
視覚情報の補完:選手は一投ごとに、ボールの軌道、残ったピンの数や番号をアシスタントに確認します。アシスタントは言葉で正確にピンの状態を描写し、視覚情報を補います。
戦術の共有:アシスタントから残存ピンの情報を得て、選手は投球のスタート位置や体の向きを変えるなどの作戦を考えます。この対話を通じて、スペアを狙う確率を高めます。
指導のポイント:視覚障がいのあるボウラーへの技術指導は、手本を見せる代わりに、動作の過程やフォームを言葉で詳細に説明することが基本となります。
介助支援の原則は、可能な限り自分の力でやってもらうことであり、「できるんだ」という自信をつけてもらうことに重点が置かれます。安全に楽しんでもらうことに留意しつつ、臨機応変なサポートが求められます。
障がい者スポーツ全体に共通する普及と支援の課題

障がい者ボウリングは参加しやすいスポーツですが、パラスポーツ全体が抱える普及と支援の課題は共通しています。これらの課題を解決しなければ、ボウリングを含む障がい者スポーツの知名度向上や裾野拡大は難しいのが現状です。
最も大きな課題の一つは、「場所」と「指導者」の不足です。
スポーツ実施場所の不足:国内の障がい者数は約1160万人に上りますが、障がい者専用または優先的に利用できるスポーツ施設は十分とは言えないのが現状です。身近な地域で運動を続けられる環境が整っていません。
専門的指導者の不足:障がい特性に合わせた専門的な指導やノウハウを持つ指導員が不足しており、地域での普及が難しい状況です。指導員がコスト削減や安全性確保の重視により現場を離れるケースも課題となっています。
大会運営や競技団体の運営基盤にも課題があります。
大会運営の課題:宿泊施設のバリアフリー対応の遅れから、国際大会を国内で開催することが困難な場合があります。競技団体自体が人材や財源に課題を抱えており、普及活動が十分に実施できていない現実もあります。
課題解決には、障がい者スポーツ専門施設と地域施設のネットワーク化や、企業による協賛やボランティア支援といった、社会全体でのサポート体制の構築が不可欠です。
知名度向上のために私たちができることとボウリングの可能性
障がい者ボウリングの知名度を高め、普及を促進するためには、アスリート本人や支援団体だけでなく、私たち一人ひとりの行動が重要になります。ボウリングが持つインクルーシブな特性を最大限に活かすことが、パラスポーツ全体の裾野拡大につながります。
私たちにできることは、特別なことではなく、身近な一歩からです。
大会の観戦・応援:全国障がい者スポーツ大会や地域のボウリング大会に足を運び、競技の熱さと真剣さを肌で感じることです。そして熱い声援を送ることで、選手のやる気を高め、競技への注目度を上げることができます。
ボランティア参加:大会運営のボランティアとして参加したり、視覚障がい者のアシスタントとして技術を提供したりするなど、人的な支援は運営基盤の強化に直結します。
情報発信:SNSなどで大会や競技の魅力を発信し、知人や友人に広めることも、知名度向上の大きな力となります。
ボウリングは、スポーツを通じて機能回復訓練を促進し、社会復帰を目指すリハビリテーションとしての側面も持ちます。競技とレクリエーションの両面から障がい者の自立と自己実現を支える、計り知れない可能性を秘めたスポーツなるでしょう。
まとめ

障がい者ボウリングは、補助具や競技規則の工夫により誰もが参加できるインクルーシブな魅力を持つスポーツです。知的障がい者競技の熱戦や、選手とアシスタントの緻密な連携はパラスポーツの可能性を示しています。
練習場所や指導者不足といった普及の課題解決のためには、観戦やボランティア、情報発信を通じて、私たち一人ひとりが積極的に関わることが未来を創る鍵となります。
あとがき
障がい者ボウリングは、誰でも楽しめるバリアフリー性と競技としての奥深さを兼ね備えた、希望に満ちたスポーツです。選手たちの真剣な姿は私たちに感動と勇気を与えてくれます。
パラスポーツの未来は、競技に取り組む人々だけでなく、応援し、支える私たちの小さな一歩にかかっています。身近な選手を応援しましょう。


コメント