2024年パリオリンピックで初めて正式競技として採用され、世界的な注目を集めたブレイクダンス(ブレイキン)は今やダンス界における多様性(ダイバーシティ)の象徴です。身体的な障がいを持つダンサーたちが、その制約を独自の個性に変えて繰り出すパフォーマンスは、観る者に驚きと感動を与えています。彼らが切り拓くアダプテッドブレイキンという新たな表現の地平やその活動を支える国内のイベントや注目のB-BOYについて本記事では徹底的に解説します。
ブレイクダンス多様性の時代障がいを力に変えるB-BOYたち
ブレイクダンスことブレイキンは、2024年のパリオリンピックで公式種目となりその高い芸術性とスポーツ性が一躍世界中に知れ渡りました。
自由な表現を可能にするブレイキンの特性
ブレイクダンスが持つ最大の魅力は、厳密なルールや型に縛られず即興性(フリースタイル)とオリジナリティが強く評価される点にあります。この特性こそが身体的な障がいを持つダンサーたちの担い手にとって、最高の舞台を提供しています。
アダプテッドブレイキンとは、障がいのある人が行うブレイクダンスを指す概念であり、単にダンスをするというだけでなく、その障がいを独自の表現に変えるという前向きな哲学に基づいています。
身体的な制約を「できないこと」ではなく「個性」として捉え直すことで他に類を見ないユニークな動きや創造的な技が生み出されています。アダプテッドブレイキンの根幹にある考え方は次の通りです。
- 制約を創造性の源泉にする:車いすや義足、あるいは視覚障がいといった状態がかえって独創的で個性的なパフォーマンスの起点となります。
- 多様なスタイルを許容する文化:ブレイキンは誰でも参加できるというインクルーシブな雰囲気が強く、異なる身体的特徴を持つ人々が対等に表現できる土壌を持っています。
ブレイキンはアートとスポーツを融合させたまさに多様性の時代に求められる自由な精神と表現の場を提供していると言えるでしょう。
世界を魅了する国際ブレイクダンスクルー

障がい者ブレイクダンスの世界的な注目度を高めた存在がILL-Abilities(イルアビリティーズ)という多国籍ブレイクダンスクルーです。
ILL-Abilitiesイルアビリティーズの活動とメッセージ
2007年にカナダのダンサーであり、モチベーショナルスピーカーでもあるルカ・レイジーレッグス・パトリエ氏によって設立されました。このクルーはアメリカ ブラジル チリ オランダ 韓国など、世界各国から集まった8人のB-BOYで構成されています。
クルー名にある「ILL(イル)」は、一般的にネガティブな意味で使われる言葉ですがヒップホップ文化においては「信じられない」「素晴らしい」「センスがある」といったポジティブなスラングです。
ILL-Abilitiesは、この言葉をあえて使うことで、障害が持つネガティブな側面や限界を強調するのではなく、ポジティブでかっこいいチームであることを目指しています。
- モットーとメッセージ:「No Excuses No Limits(言い訳なし、限界なし)」をモットーに掲げ「ダンスとは自由そのものだ(For me dance is freedom)」という力強いメッセージを世界中に発信しています。
- 国際的なパフォーマンス:世界各国でハイレベルなパフォーマンスを行い、特に障害を活かした独自の技は、観客に想像を超えたネクストレベルなダンスとして衝撃を与えています。
- 教育と啓発活動:大会やパフォーマンスだけでなく、世界中の学校や病院を訪れワークショップを実施することで、若い世代にダンスの楽しさや彼らのストーリーを共有し多様性への理解を広げる教育的役割も担っています。
日本でもTrue Colors Festival(超ダイバーシティ芸術祭)などのイベントに出演し、日本のトップダンサーや国内の障がい者ブレイクダンスチームと熱いダンスバトルを繰り広げています。
その姿は障害の有無に関係なく誰もが共存できる多様性社会の理想的な姿をダンスを通じて体現していると言えるでしょう。
日本の注目すべきアダプテッドブレイキンB-BOY
国際的なクルーだけでなく、日本国内にも障がいを独自のスタイルに変えて活躍する注目すべきブレイクダンサーがいます。彼らは高い技術力と個性的な表現力で、国内のイベントや啓発活動を通じてアダプテッドブレイキンの可能性を広げています。
独自のスタイルで活躍する国内のパイオニアたち
国内で特に先駆的な存在として活躍しているダンサーには、次の2人が挙げられます。
SHUNJI氏(高橋俊二)プロブレイクダンスチームMORTAL COMBATに所属する世界トップレベルのダンサーでありスレッドスタイルを武器に活躍しています。
現在は一般社団法人日本アダプテッドブレイキン協会の代表理事として、障がいを持つ子どもたちとその家族が、ダンスを楽しめる特別な空間づくりに尽力しています。
MORIKO JAPAN氏(Hitoshi Mori)目の病気である網膜色素変性症と闘病中の白杖ダンサーです。普段は薬剤師として働きながら、白杖をパフォーマンスに取り入れたブレイクダンスで多方面で活躍しています。
MORIKO JAPAN(Hitoshi Mori)白杖ダンサー
目の病気である網膜色素変性症と闘病中、普段は薬剤師として働きながら、 白杖を使用したブレイクダンスで多方面で活躍。パフォーマンスを通して 視覚障がい者への理解を広げるため活動中。
また若い世代の活躍も目覚ましいものがあります。例えば右足がない8歳の少年が大好きなブレイキンで世界に挑戦している事例は、多くの人々に夢と希望を与えています。
日本のB-BOYたちの活動は、障がいを持つ人々が、社会から無意識に投げかけられる「危ない」「できない」といった、壁を打ち破り自分らしく伸び伸びと活躍できる未来を切り拓いています。
インクルーシブなイベントUNIQUE ZONE Breakin

障がいを持つダンサーたちが自由に自己を表現し、競技者として切磋琢磨できるインクルーシブなイベントが国内で定期的に開催されています。その代表的な大会がUNIQUE ZONE Breakinです。
障がいを個性とするダンサーのための競技の場
健常者と障がい者が共に参加できる。共生社会のイベントとして進化を遂げています。UNIQUE ZONE Breakinの主な特徴は以下の通りです。
- 開催部門の多様性:主に障がい者ブレイクSOLOバトルと、2on2ブレイクバトルが開催されます。2on2バトルでは障がい者同士のタッグはもちろん、障がい者と健常者のタッグも参加可能でありバトル形式となっています。
- 競技としての位置づけ:障がい者ブレイクSOLOバトルの優勝者には、ユニークゾーンワールドへの出場シード権が与えられるなど、本格的な競技の場として機能しています。
- バリアフリーな運営:会場は障がい者スポーツセンターなどで開催され、手話通訳が設けられるなど、誰もが安心して参加 観覧できるバリアフリー対応が徹底されています。
当初は大阪の長居障がい者スポーツセンターなどで開催されていましたが、近年では地域へと広がりを見せており、例えば2025年11月には「ユニークゾーン沖縄 2025」として沖縄で初開催されるなど、その活動の輪を広げています。
ブレイキンが示す共生社会へのメッセージ
ブレイクダンス(ブレイキン)は、その自由な精神と表現の多様性から、現代社会が目指すべき共生社会のあり方を、示唆する重要な役割を担っています。
架け橋としての役割
ブレイキンが多様性やインクルージョンの面で注目されている理由は、次の通りです。
- 個性を最大のリスペクトとする:ブレイキンでは、即興で音楽に合わせて繰り出される唯一無二の動きこそが、最も評価されリスペクトされます。ダンサーの体の表現を、素敵な個性として受け入れる風土があります。
- 壁を超えた感動の共有:障がいを持つダンサーたちは、パフォーマンスを通じて「障害の壁はすでに自分で超えている」という内なる情熱をパフォーマンスで示し、観客や他のダンサーに強い感銘を与えます。
特にインクルーシブなイベントでは、障がいの有無に関係なくダンサー同士がスキルと熱量で、対等にバトルしパフォーマンスの後に抱擁し合う姿が見られます。
「不可能なんてない」という言葉が示すように、ブレイキンは障がいという概念を、個性の輝きに変える無限の力を持っていると言えるでしょう。
まとめ

障がいを最高の個性に変えるアダプテッドブレイキンは、今世界的な注目を集めています。「言い訳なし、限界なし」をモットーに国内外のB-BOYたちが独自の表現で多様性の時代を切り拓く姿は必見です。
自宅で楽しむのも良いですが、UNIQUE ZONE Breakinのようなインクルーシブなイベントに、足を運び彼らが体現する共生社会のエネルギーを、肌で感じてみてください。きっと想像を超える感動と勇気をもらえるはずです。
あとがき
彼らのダンスを動画で見たのですが、障がいを個性ととらえ、自分のオリジナルのダンスに心を惹かれました。信念にも共感できます。機会があれば、ぜひ実際に見てみたいと思います。


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