パラスポーツをもっと多くの人に知ってもらうために、いま注目されているのが「推し活」という新しい応援文化です。アイドルやアニメの世界だけでなく、スポーツにも広がるこの熱量です。では、パラスポーツの広報にどう活かせるのでしょうか?ヒントは「共感」にあります。
第1章:推し活の力を知ろう──なぜ「推し文化」は人を動かすのか
推し活のエネルギーは、いまや社会現象と言えるほどです。広報担当者にとっても、ファンが自ら情報を広めてくれる仕組みづくりのヒントが詰まっています。
「推し活」とは“好き”が行動を生む文化
「推し活」とは、自分が好きな人やコンテンツを応援する活動のことです。アイドル・アニメ・eスポーツなど、あらゆる分野でファンが“自発的”に盛り上がる姿が見られます。
最近では、応援用グッズを作ったり、SNSで推しの魅力を発信したりすることが日常化しています。
推し活とは、アイドルやアーティスト、俳優、アニメキャラクター、スポーツ選手など、自分の「推し」を応援する活動を指します。
ライブやイベントに参加して直接応援する、公式グッズやオリジナルアイテムを集める、SNSで情報発信や仲間と交流する、聖地巡礼や応援企画に参加するなど、その楽しみ方は実に多様です。
SNSが生んだ“共感の輪”
かつての応援は「観客」によるものでしたが、いまは「発信者」が担う側面も大きくなっていると言えるでしょう。SNSがその流れを作り出したという見方もできます。
ファン同士がつながり、コミュニティが形成され、「私の推し」が「みんなの推し」へと広がっていくのです。この“自分ゴト化”こそが推し文化の最大のエネルギー源です。
パラスポーツとの共通点
パラスポーツの魅力も、まさにこの“共感の連鎖”にあります。「努力」「ストーリー」「挑戦」、これらはファンの心を動かす強力な要素です。
推し文化が生む“熱量の経済”は、単なる盛り上がりではなく、社会を動かす原動力になり得ます。いまや「伝える」ではなく「推される」存在を見出す時代に突入していると言えるのではないでしょうか。
第2章:パラスポーツ×推し活の可能性──ファンとの新しい関係をつくる

推し活の導入は、単なる流行ではなく、パラスポーツが抱えてきた“支援型の伝え方”を変えるチャンスです。
“感動”から“日常の応援”へ
これまでパラスポーツは「感動」「勇気」「支援」といった言葉で語られることが多く、どこか“特別なもの”として扱われてきました。
しかし推し活の導入によって、応援がもっと日常的でカジュアルなものになります。たとえば、「今日は○○選手が練習頑張ってる!」という投稿を、ファンが楽しんでシェアする世界観です。
実際にできる推し活的施策
一般的な例としては、アスリートのSNS発信をサポートしたり、ファンが交流できるオンラインイベントを開いたりする方法があります。
さらに、チームや競技をモチーフにしたグッズ展開、公式キャラクターの制作も効果が見込めるでしょう。これにより、ファンは“自分も関わっている”という感覚を得られます。
「支援」ではなく「共創」へ
推し活の魅力は、“上から支援”ではなく“横で応援”に当たると言えるでしょう。ファンは選手やチームの成長を自分の喜びとして感じます。
企業や自治体、メディアが一体となってこの共創型の文化を育てれば、社会的理解の輪も自然に広がっていきます。三方良しならぬ四方良し(選手・ファン・企業・社会)の関係を目指せるのです。
第3章:推しのつくり方──アスリートとキャラクター、どちらを推す?
“推し活”の中心を誰に据えるか。それは広報戦略の要です。リアルなアスリートを推すのか、2次元キャラクターを立てるのか。その選択でファンの動き方も変わります。
リアル推し──人間ドラマが最大の魅力
アスリート本人を推す最大の強みは、リアルな努力とストーリーがあることです。試合の緊張感や怪我からの復帰など、現実のドラマがファンの共感を呼びます。
一方で、SNS時代は距離が近くなるぶん、プライバシーへの配慮も欠かせません。過度な接触や情報の拡散には、公式ガイドラインの整備が必要です。
キャラクター推し──安全で楽しい“もう一人の推し”
もう一つの方法として、公式キャラクターを立てることが挙げられます。大会のマスコットや競技紹介キャラを「推し」として設定すれば、誰でも安心して応援できます。
キャラクターを“競技の代弁者”として設計すれば、競技そのものへの理解も深められるでしょう。ファンアートやグッズ展開など、参加の幅が広がることも期待できます。
二層構造の推し活で共感を広げる
または、アスリート本人とキャラクターの両方を活かす「二層構造の推し活」も有効でしょう。
たとえば、キャラクターがアスリートを紹介したり、SNSで掛け合ったりする仕組みをつくると、ファンが自然に両方を応援する流れを作り出せることでしょう。
現実とフィクションをうまく組み合わせることで、パラスポーツの認知と共感を両立させるアプローチを図ることができます。
第4章:推し活導入の課題とリスク──人気の裏にあるデリケートな問題

「推し活」は確かに魅力的な広報手法ですが、熱量の裏には見過ごせない課題もあります。ここでは、パラスポーツに推し文化を導入する際に注意すべきリスクと、その対処法を考えてみましょう。
アスリートのプライバシーを守るルールづくり
最大のリスクはプライバシーの侵害です。SNS時代はファンとの距離が近い反面、写真や個人情報の無断投稿などが起きやすい環境です。
推しの練習場所を特定したり、私生活を“追いかけて”しまうケースもゼロではありません。
防止策の基本としては、選手・広報・メディアの三者で「SNS運用ガイドライン」を明文化し、投稿内容や撮影ルールを共有することが不可欠です。
人気格差による“推され疲れ”問題
もう一つの課題は、人気の偏りです。特定の選手や競技だけが注目されると、他の競技や選手が埋もれてしまう恐れがあります。
これを防ぐ方策の一つとして、チーム単位や競技全体を推すような広報設計が挙げられます。キャラクターやビジュアルキャンペーンで“競技そのもの”の魅力を推すのも一つの方法です。
「感動消費」に偏らない発信を
パラスポーツはしばしば「感動的」「勇気をもらえる」と報じられますが、そればかりでは“消費型の共感”にとどまりがちです。
競技そのものの面白さや技術的魅力を発信し、「感動」ではなく「尊敬と共感」を軸にした広報を心がけましょう。ファン教育型のキャンペーンを通して、正しい応援マナーを育てることも欠かせません。
推し活の成功には、ファンの熱意を「暴走させない仕組み」が欠かせません。運営・広報・ファンが共にルールを共有することで、健全で持続可能な応援文化が育ちます。
第5章:成功するための設計──推し活を事業として回す仕組み
推し活を一過性のブームで終わらせないためには、“盛り上がりを持続させる設計”が必要です。ここでは、パラスポーツ広報が意識すべき3つのステップを紹介します。
共感づくり──物語でつながる
まずは共感の設計です。アスリートのストーリーや日々の努力を伝える発信が、ファンの心を動かします。
SNS投稿やショート動画などで「リアルな声」を届けると、ファンは“自分の推し”として自然に関わり始めます。発信を支えるスタッフ体制やコンテンツ企画も欠かせません。
参加づくり──ファンが主役になる場
次に、ファンが「見るだけでなく参加できる仕組み」を整えましょう。オンライン交流会、ファン投票イベント、練習見学会など、関わる機会を増やすことで、コミュニティが活性化します。
デジタルプラットフォーム上に“推しの広場”をつくるのも効果的です。
還元づくり──応援を社会的価値に変える
最後は還元の仕組みです。応援グッズやクラウドファンディングなどを通して、ファンの支援を競技発展につなげる仕組みを設計します。
企業や自治体と連携し、CSRやSDGsの文脈で展開すれば、社会的価値の高い活動として注目されます。KPIとしてはSNSエンゲージ率、イベント参加者数、寄付金額などを設定すると成果が見えやすくなります。
広報担当者は、単なる宣伝者ではなく「推し活のプロデューサー」としての意識を持つことも欠かせません。熱量を“循環”させる仕組み作りを念頭に置くことが成功の鍵と言えるでしょう。
まとめ

パラスポーツの魅力を広げるカギは、「推し活」という新しい応援の形にあります。アスリートとファンが共に物語を紡ぎ、社会が一体となって応援を楽しむ──それが次世代の広報の姿と言えるのではないでしょうか。
大切なのは、ルールを整え、共感を循環させることです。推し活は、誰かを“支える”を超えて、共に“生きる”文化へと進化しています。
あとがき
推し活の熱量は、取り組んでいる方自身の生き方にも大きな影響を与えるものとなります。つまり、自分ごととなるわけです。
そういった観点からパラスポーツ関連で推しを持つ方が増えれば、それだけパラスポーツが理念に掲げる共生社会の実現に近づいていけるのではないでしょうか。


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