大切な人の気持ちの波をそばで見ているのは、本当に苦しいものですよね。病院やカウンセリングに行きたくない時でも、あなたにできることはきっとあります。そんな時におすすめしたいのが、川のせせらぎを聞きながら歩く「リバートレッキング」です。境界性パーソナリティ障害(BPD)にどのくらい効果があるかは、まだ研究が進んでいませんが、水辺で過ごす時間が心を落ち着かせることは分かっています。自然の力を借りて、無理なく過ごせる穏やかなひとときの作り方をご紹介します。
境界性パーソナリティ障害(BPD)とは?
まずはBPDがどんな特性なのかを知っておきましょう。理解することで、より良いサポートができるようになります。
BPDの特徴
BPDは感情のコントロールがとても難しい精神的な特性です。ちょっとしたことで激しく怒ったり、深く落ち込んだりします。人との関係でも、すごく近づきたい気持ちと、捨てられるのが怖い気持ちの両方があります。
普通ならあまり気にならないような小さなことでも、心が大きく揺れてしまうことがあります。これは、感情をコントロールする脳の働きがとても敏感になっているためです。本人も「どうしてこんなに気持ちが揺れてしまうんだろう」と悩んでいることが多いのです。
BPDの原因と治療
はっきりした原因は分かっていませんが、小さい頃のつらい体験や遺伝的な要因が関係していると考えられています。
BPDに特別な薬はなく、治療の中心はカウンセリングなどの精神療法です。ただし、日本では専門的な治療を受けられる場所はまだ少ないのが現状です。一番大切なのは、本人が「良くなりたい」と思う気持ちです。
リバートレッキングとはなに?

リバートレッキングがどんな活動なのか簡単にご紹介します。リバートレッキングは川の中を歩いて自然を楽しむ活動です。普通の山歩きと違うのは、水の音や感触を感じながら歩くところです。水辺には森とは違った、特別な癒しの力があると言われています。
川の流れる音、冷たい水、足元の石の感触など、五感すべてで自然を味わえます。水の中をゆっくり歩くので体への負担も軽く、年齢や体力に関係なく参加できるのも魅力です。激しい運動が苦手な方でも無理なく楽しめます。
科学的に証明された3つの効果|なぜ心が落ち着くのか
「本当に効果があるの?」と思われるかもしれませんね。自然で過ごすことが心に良い影響を与えることは、研究でわかっています。
1. 水音による自律神経の安定化効果
水の音を聞くと、血圧や心拍数が下がり、ストレスホルモンが減ることが複数の研究で確認されています。水の音は天然の周りの気になる音「ホワイトノイズ」ととして働き、日常の雑音をかき消して心を落ち着かせてくれるでしょう。
2. ゆっくり歩くことで気分が良くなる
川の中をゆっくり歩く一定のリズムは、脳の中で気持ちを良くする物質(セロトニンやエンドルフィン)を出してくれる可能性があります。
感情の波が大きいBPDの方でも、同じリズムで歩き続けることで気持ちが少し落ち着くことがあります。ただ、研究はまだあまり多くないので、これからもっと詳しく調べていく必要があります。
3. 水辺にいると幸せを感じやすくなる
水辺で過ごすと人の幸福度が高まりやすい、というデータがあります。これは「ブルースペース効果」と呼ばれています。川や海などの水辺には、森とはまた違った癒しの力があり、ストレスをやわらげたり気持ちを回復させたりする効果があることが研究でわかっています。
こうした効果を実際に体験した方たちの例を見てみましょう。
自然体験がもたらす小さな変化(ケーススタディ)

実際にBPDの方に効果があった自然体験の例をご紹介します。
研究で分かった効果
スペイン・リェイダ大学の研究では、BPDの方約30名が自然環境でのアドベンチャー・セラピーを体験しました。その結果、健康的な生活習慣を身につけ、機能性と生活の質も向上することがわかったそうです。
BPD当事者の声
海外のBPD支援コミュニティでは、「自然にいると心が整う」という投稿が多く見られます。
“I absolutely love being in the nature. It’s soothing and healing. I think that to people who suffer from BPD/CPTSD due to peer victimization and social ostracization find nature/animals safer than other human beings…”
(自然の中にいるのが大好きです。心が落ち着き、癒されます。BPDに苦しむ人にとって、自然や動物は他の人間よりも安全だと感じているのではないでしょうか。)
このように、自然体験が実際に心の安定につながっている例があります。では、具体的にどうサポートしていけばよいのでしょうか。
サポートする具体的方法|一緒に始める自然体験
具体的にどうBPDの方をサポートしていけばいいのか、説明していきますね。
知っておきたいBPDとの関わり方
BPDの方との関わりで最も大切なのは、一貫した安定した態度を保つことです。感情の波が激しい時でも、優しくしっかりとした対応を心がけましょう。
約束は極力守り、信頼関係を築くことが何より大切です。身近な人への攻撃的な言動は、見捨てられることへの恐怖から生まれています。個人的に受け取らず、その背景にある不安や苦痛を理解することが効果的です。
感情的に反応せずに「あなたのことを大切に思っているよ」と伝え続けることが大切です。また、はっきりとした境界線を設けることも必要です。どんな行動は受け入れられるか、どんな行動は受け入れられないかを分かりやすく伝え、いつも同じように対応しましょう。
段階的に始める自然体験
いきなりリバートレッキングに参加するのはハードルが高いかもしれません。まずは小さな一歩から始めてみませんか。
- 第1段階:川の見える場所でお茶を飲む
- 第2段階:川辺を散歩してみる
- 第3段階:足だけ水につけてみる
- 第4段階:ガイド付きのツアーに参加
また、本人がBPDの自覚がない場合は、治療ではなく、自然体験として提案するのも一つの方法です。
BPDでの環境変化への配慮
私がサポートしている方からお聞きした話ですが、BPDの方を川辺を散歩したりグループに参加させる時には、いくつか気をつけていることがあるそうです。
まず、BPDの方は慣れない場所や人がいると緊張し、ストレスを感じてしまうことがあるそうです。急に気持ちが変わることもあるので、「疲れたら帰ろうね」と声をかけて安心感を与えるように気をつけて欲しいとのことです。
笑顔が見えた時は一緒に喜び、疲れた表情を見せた時はすぐに聞いているとのことでした。本人から「行ってみたい」と言われた時だけ誘うようにして、プレッシャーを与えないよう心がけているそうです。
サポートする方への大切なアドバイス
BPDの方をサポートするのは精神的にとても大変です。疲れた時は無理をせず休息を取り、一人で抱え込まずに専門家や同じ立場の方と相談できる環境を作っておきましょう。
あなた自身が元気でいることが、結果的に相手にとっても一番のサポートになります。専門的な治療と併せて、こうした自然体験がきっと心の支えになってくれるでしょう。
まとめ

BPDの方をサポートするのは決して一人でできることではありません。でも、自然の力を借りながら、少しずつでも穏やかな時間を一緒に過ごすことはできるはずです。
大切なのは「無理をしないこと」、そしてサポートするあなた自身の心も大切にすることです。小さな一歩から始めて、お互いにとって心地よいペースを見つけていってください。
筆者のあとがき
BPDは周りの人の理解が得られにくく、心無い言葉にショックを受け苦しい思いをすることもあるでしょう。患者をそばで支える人たちは、どう接していいかわからず悩むこともあるでしょう。
それでもお互いに歩み寄り信頼関係を築き、深い愛情と忍耐をもって前に進んでいると思います。この記事でご紹介した自然との触れ合いが、少しでも皆さんの心の支えになればうれしいです。
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